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ストーリーズ
琉球フィルハーモニック 「跳びはねてもいい音楽会」
Ryukyu Philharmonic “Feel Free to Jump! Concert”
障害のある方もない方も、子どもも大人も
みんな本格的なクラシックを楽しもう!

跳びはねてもいい音楽会。公演中も明るい客席、手話通訳、UDトーク、車いすなどが見える。演奏中も出入り自由。=2025年11月2日、沖縄県西原町町民交流センター
■プロフィール
琉球フィルハーモニックは、「音楽と共にまちと響きあう」を理念に 2012 年に活動をスタート。ホールのほか美術館や学校などを会場に、離島を含む県内で活動を重ねている。クラシックやジャズのほか、ゲーム音楽、IT技術によるメディアアートなど多彩な分野との協働に携わり、2019 年からはバリアフリーを目指す「美らサウンズコンサート」を開始、共生社会づくりに向け「跳びはねてもいい音楽会」へと発展させた。

▶︎公式WEBサイト
「障害のある方もない方も、子どもも大人も みんなで本格的なクラシックを楽しもう!」。こんなキャッチコピーと可愛いイラストが躍るチラシに、目を惹かれた人も少なくないのではないか。那覇本拠の一般社団法人「琉球フィルハーモニック」(以下、琉球フィル)主催の「跳びはねてもいい音楽会」。あらゆる障害者やその家族をはじめ年齢、音楽鑑賞の経験の有無などにかかわらず、誰もが気軽に参加できる共生社会型のコンサートである。画期的なこの試みの源流は 2019 年に遡り、県内各地で続けられてきた。2025 年は 11 月、西原町町民交流センターで開催された。事業名の通り、演奏にのって客席で踊り出す聴衆も見られ、会場は和やかな雰囲気に包まれた。公演の模様や関係者の思いをお伝えしよう。
2025 年 11 月 2 日、日曜朝。初秋の光に包まれた「さわふじ未来ホール」は、音楽をめでる人々の声と拍手が響いていた。フルートやクラリネットなどの県内外のプロ演奏家がハーモニーを醸す。演目はモーツァルトや、フランス近代の作曲家プーランクらが木管楽器とピアノのために作った室内楽の作品。この日、唯一の金管楽器ホルンを担当したのは、何と世界有数の名門オーケストラの一つ、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者。小じんまりした編成ながら、滋味あふれる音楽に力強い響きが加わり、客席の心を沸き立たせる。

公演前日のスクリーン設置・調整作業。床には乳幼児ら向けのフロアマットが見える
舞台のすぐ前の床は、目にも柔らかな黄色と緑のフロアマットレスが 28 枚、パズルのように繋ぎ合わされて帯状に敷かれている。陣取るのは主に乳幼児や親たち。座ったり、寝転がっている子も居た。傍らには車椅子に乗る障害者の人々。そして客席には視覚や聴覚はじめとする身体や知的など様々な障害を持つ人々、保護者、お年寄り、外国人などが集まる。
リズミカルな音楽が始まると、席から立ち上がって楽しそうに踊る子どもの姿や演奏の最中、声を上げる人も。それを咎(とが)めたり、たしなめたりする人は居ない。障害のある人、ない人、様々な人々が入り混じり、共に暮らす「共生社会」。館内は、その縮図に見えた。クラシックコンサートは通常、聴衆に静かな鑑賞を求めるため敷居が高い印象もあるが、ここではそんなルールが緩められ、普段は入場をためらう人々も生演奏に触れられる仕組みだ。
目指すは「だれもが音楽を楽しめるコンサートです」と、司会を務めた、琉球フィル代表の上原正弘さん。もともとプロのホルン奏者。その言葉は、耳が不自由な方向けに手話通訳が訳し、舞台下手のスクリーンには文字で表示される。またマイクで拾った演奏や司会らの音声を FM 電波を活用し、希望する聴衆にヘッドフォンで届ける補聴援助の仕組みもあった。
更には点字で打たれたプログラムノートを、聴衆が自身のスマホを活用し自動音声で読み上げてもらえるシステムも紹介されている。全て前日、スタッフが 2 時間以上かけて装置や機械を設置、調整していた。「当事者の障害の種類やレベルは実にさまざま。ニーズ対応をめぐる、終わりの無い取り組みです」と、琉球フィル総務部長の上原大輝さん。以前はラジオ放送のパーソナリティだったが、このコンサートの企画制作者募集の話を聞き、「おもしろそうだ」と転身した。従来、コンサートに来れなかった方々から「介護者や生活者ともども来れて嬉しい、と言われるのが喜び」と話し、スタッフの波平茂さんともども、準備に汗を流していた。
当日は演奏中、気持ちが高まりがちな聴衆が心を落ち着かせる「クールダウン」スペースも用意され、看護師も二人待機。「癲癇(てんかん)やパニックに備えています」とボランティアリーダーの久高真貴子さん。同ホールには元々、ガラス越しながら親子で語りつつ鑑賞できる特別室も備えており、その利用者も。終演後は「聴けて良かった」「楽しかった」との声がロビーに響いた。

公演前の関係者打合せ。駐車場から会場誘導、受付、ホール内担当など、子どもから高齢者まで多くのボランティアが参加
目を引いたのが、駐車場での車誘導からホール内への車椅子誘導、受付、ホール内の案内役などに当たった小中高生、大学生らのボランティア。おきなわふくしオンブズマン運営委員長の照屋尚子さんが、まとめ役を務める。このコンサートが単なる音楽会に留まらず音楽事業者、音楽家、福祉関係者、医療従事者らが市民と力を合わせ、障害者らの社会参加促進を目指して取り組む市民運動の場、社会教育の場でもあることが感じられた。
こうしたバリアフリーコンサートを始めた動機は 20 数年前、正弘さんが琉球フィル専務で妻の玲子さんと児童障害者施設で演奏した折にあった。子どもたちの反応に驚いたのだ。更に障害者の家族から「クラシックが好きだが、聴ける機会がない」と明かされたことなども大きい。福祉の専門家、障害当事者らも交え、コンサートづくりを話し合う「ゆいまーるミュージックプロジェクト」を立ち上げ、その結果を基に 2019 年から「美らサウンズコンサート」の名で事業を始めた。これまで県南部・与那原町の観光施設や、中部うるま市のホール、宮古島や石垣島の市民会館、そして県都・那覇の文化芸術劇場「なはーと」などで開催を重ねてきた。2025 年 12 月には、初の県外開催を大阪でデビュー。「沖縄発の試みを全国に広げていきたい」と正弘さんは力を込める。県内では次回来年 5 月公演で、初めてジャズを舞台化する。