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【イベントレポート】
「障害のある人たちの芸術活動のこれからを考える」後編

2025年3月22日(土)、おきなわ工芸の杜 多目的室にて、セミナー「障害のある人たちの芸術活動のこれからを考える」が開催されました。また、沖縄県内の福祉事業所利用者の作品展「わったーアート展」も、セミナー会場前にて同時開催。

 

このレポートでは、イベント当日の様子を前編・後編に分けてお届けします。

 

レポートの後編は、奈良県や大阪府での先駆事例の紹介と、登壇者による沖縄県での今後の活動についてのトークセッション、同時開催の作品展示についてです。

 

前編はこちら

 


目次

【後編】

 4. 先進事例紹介

   障害のある人がアート活動に取り組む3つの意味」 一般財団法人たんぽぽの家(奈良県)

   「どんな事業にも福祉の視点があっていい」国際障害者交流センター ビッグ・アイ(大阪府)

 

 5. 仲間とのキャッチボールで進めていく」登壇者によるクロストーク

 

 6. 質疑応答

 

 7. 同時開催「わったーアート展」

 

 


 

4. 先進事例紹介

沖縄県内の事業所での取り組みや、沖縄県障害者芸術活動文化活動支援センター「ricca/りっか」(以下、センター)の説明の後は、先進事例として、奈良県と大阪府の施設より活動事例の紹介がありました。

 

障害のある人がアート活動に取り組む3つの意味」
一般財団法人たんぽぽの家(奈良県)

岡部太郎(おかべたろう)さん(以下、岡部さん)は、一般財団法人たんぽぽの家(以下、たんぽぽの家)でのアート活動や支援活動について紹介しました。

 

岡部さんは、東京の美術大学に在学中、休学してたんぽぽの家で1年間のインターンを経験。大学を卒業後にそのままたんぽぽの家に就職し、20年以上が経つそう。

 

たんぽぽの家は50年以上活動を続けています。特に、重度の脳性麻痺がある利用者がやりたいこと、やっていて心地のいいことを追求してきました。その結果、利用者にとってアート活動が非常に合っていたとのこと。

 

岡部さんは、障害のある人がアート活動に取り組む3つの意味を紹介しました。

 

1つ目は「アートを通して、他者とつながる機会と、成長するきっかけをつくる」こと。アート活動を通して人とのつながりが生まれます。また、企業や行政から対価をもらい、テーマのある中で悩みながら作品をつくり上げることが成長の機会となります。

 

2つ目は「アートを通して、人や社会の見方を変える」ことです。岡部さんは「見方を変えれば、その人の行為を問題行動としてではなく、存在することの価値として捉えることができる」と続けます。利用者の一人に薬のカラを集める方がいました。家族が困るほどたくさんありましたが、それを使った作品は美術館職員が「見たことがない」という理由で韓国の美術館で展示されました。

 

3つ目は、「思いを形にするための選択肢と環境の必要性」です。1つの表現方法を続けるのではなく、例えば、支援員が「こんなこともやってみない?」と違う選択肢を伝えることで、アーティストの表現の幅が広がることがあります。

 

岡部さんは、障害のある人のアートを就労につなげる事例や社会とのつながりについても紹介しました。

 

多岐に渡るたんぽぽの家の活動のひとつに、Good Job! Center KASHIBA(グッドジョブ!センター 香芝)」があります。「障害のある人とともに、アート・デザイン・ビジネスの分野をこえ、社会に新しい仕事をつくりだすこと」を目指して、2016年にオープンしました。アート、デザイン、ビジネスをテーマに障害のある人とデザイナーやクリエイター、企業が協働しています。

 

Good Job! Center KASHIBA でつくられた商品は、オンラインサイトで購入可能。また、同施設内にはカフェやショップもあります。ショップで販売されているのは、全国の福祉施設や障害のある人が関わって生まれた商品。取り扱っているのはオンライン・実店舗合わせて3000点以上。商品の発送や梱包、オンラインショップのバナー作成やSNSでの商品紹介も、障害者自身が行っています。

 

さらに、たんぽぽの家は展示会のプロデュース、地域アートプロジェクト、店主が作品を選んで自身の店内に飾る「プライベート美術館」、作品づくりのワークショップ、知的財産の学習推進プロジェクトなどを行っています。

 

最後に、障害者芸術文化活動普及支援事業として近畿ブロックで行なっている「障害とアートの相談室」について紹介がありました。

相談室でのサポート活動は4つあります。それは、現場のニーズを共有する、各地からの相談支援対応、研修事業の実施、新しい表現を通した価値の提案です。具体的には、展覧会や販売・アーカイブに関するセミナー、アトリエ活動、舞台表現の機会などを展開しています。

 

沖縄でのセンター設立について、岡部さんは、今回のセミナーに参加している人がセンターに関わる余地があると言います。奈良県でも、設立当初は何が必要かを現場の人に聞いていたそう。

 

「芸術文化活動に対して、何に困っているか、何がニーズなのかは、自分たちでもわからないことが多い。そんな時に集まって話したり情報交換をすることで、自分たちに足りないことやできていることがわかっていく。それが年間を通して、様々な形で行われていくのだろうと思う」と、岡部さんはセンターの始動にエールを送りました。

 

アートと社会をつなげる、多種多様な活動を紹介する岡部さん。

「どんな事業にも福祉の視点があっていい」
国際障害者交流センター ビッグ・アイ(大阪府)

国際障害者交流センター ビッグ・アイ(以下、ビッグ・アイ)の鈴木京子(すずききょうこ)さん(以下、鈴木さん)は、事業の考え方や舞台芸術活動支援の事例について紹介しました。

 

鈴木さんは舞台制作の仕事を経て、ビッグ・アイでの活動を始めました。現在は、ワークショップなどを通じて、障害者の舞台芸術や公共施設で障害のある人が表現できる場を広める活動をしています。

 

ビッグ・アイは、2001年に障害のある人の文化芸術活動の拠点として、国によって設立されました。就労継続支援A型の福祉施設ですが、1500人規模のホールが併設されています。車椅子席は200席ほど作ることができます。

 

鈴木さんは、福祉と美術は分野を分けて語られることがあるけれど、どんな事業にも福祉の考え方があっていいと言います。

 

鈴木さんの事業のコンセプトは、福祉の理念を持って舞台芸術表現活動を支援すること、そして「障害者向け」と決めつけることなく、障害特性を踏まえて、参加するためのアクセス方法を考えることです。

 

鈴木さんは「誰もが楽しめる」「バリアフリー」という言葉に注意しているそう。「誰もが」は誰なのか、「誰に対して」のバリアフリーなのかを見直しながら、事業をつくっています。

 

具体的な舞台芸術活動支援の例も紹介されました。

 

大阪府では「大阪市障がい者舞台芸術オープンカレッジ」(以下、カレッジ)が実施されています。カレッジにはダンスの体験のコースと、スキルアップや舞台に立つことを目標としたコースがあります。

 

カレッジは、ダンスの体験ができるだけではありません。障害者にとって、学校を卒業した後に限られた世界しかない中、カレッジが新しい居場所となり、交流が生まれ、障害の有無関係なく仲間をつくることができます。

 

鈴木さんは、カレッジからトッププレイヤーになるための道筋を20年にわたってつくってきました。

その中で生まれたダンスユニットは、大河ドラマや映画、パラリンピックの開閉会式に出演。 

また、2019年に開始した「ダンスドラマ」は、沖縄を含む全国7か所と海外4か所の地域から集まった参加者が1つの作品を作るプロジェクトです。プロ、セミプロ、アマチュアのダンサーがおよそ100人関わっていて、そのうち3割が障害のある人です。

 

鈴木さんは、表現だけではなく鑑賞の体験も重要視しています。そこで実施しているのが、鑑賞支援です。

 

鈴木さんが展開する「劇場って楽しい!!」というプログラムには、劇場へ行くハードルを下げる工夫があります。照明の明暗やイヤマフの貸し出しなど、様々な障害特性に合わせた配慮があることを資料などで紹介。それにより、障害のある人本人や保護者が安心して鑑賞できるようにしています。

 

ただ、好きに騒いでいいというわけではありません。劇場のルールを通して、「少し頑張ってみたら、みんないっしょに楽しく公演を見られる」ということも伝えます。それは、次に別の劇場でも楽しめるように、学びの体験をしてもらうことでもあります。

 

また、ビッグ・アイでは、海外の障害のある人とのダンスワークショップといった国際交流に取り組むほか、相談を受けて職員を派遣し、ダンスワークショップの運営やアドバイスも行なっています。また、全国の劇場のアクセシビリティがわかるサイトを構築中。

 

沖縄のセンターについて、鈴木さんは「ビッグ・アイは様々なことをやってると思われるかもしれませんが、25年かかってここまでくることができた。1人でやるのは限界があるので、まずはセンターが様々な方とつながり、協力し合って、沖縄の障害者の文化芸術が推進されるといい」とメッセージを伝えました。

 

ビッグ・アイの活動とその効果を紹介する鈴木さん。

5. 「仲間とのキャッチボールで進めていく
登壇者によるクロストーク

ここまでの内容を踏まえ、沖縄県での今後のセンターの活動について、登壇者4名による意見交換が行われました。ファシリテーターは九州障害者アートサポートセンターの樋口龍二さん(以下、樋口さん)です。

【クロストーク登壇者】

喜納平(沖縄県障害者芸術活動文化活動支援センター ricca/沖縄県)

谷本裕(沖縄県立芸術大学音楽学部/沖縄県)

岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家/奈良県)

鈴木京子(国際障害者交流センター ビッグ・アイ/大阪府)

樋口龍二(九州障害者アートサポートセンター/福岡県) *ファシリテーター

 

樋口さん:喜納さん、ここまでの感想は?

 

喜納さん:センターから発信はできても、リアクションしてもらえないと次にはつながりません。そのため、キャッチボールしていくことが推進力になっていくと思います。今日(セミナー参加者に)これだけ関心を持ってもらっていることを踏まえると、時間はかかるかもしれないけれどいいことができると思っています。

 

樋口さん:ご自身の支援センターの活動について、どのように伝えていますか?

 

岡部さん:これまで障害者のアート活動の多くは、施設、作業所、家庭単位で行われてきました。センターの事業は、障害者のアート活動の楽しみを国が管理するように見えるかもしれません。でもそうではなくて、国のプラットフォームに参加することで、これまで知らなかった人たちと関わり合えるものだと伝えています。

 

樋口さん:仲間を増やすことについてどう考えていますか?

 

鈴木さん:ビッグ・アイが全部の活動をずっと行っていくことはできないので、核になる人が欲しいと思っています。活動の種をまくだけでなく、時間をかけて、継続していけると、(活動が)地域に根付くことを実感しています。

 

樋口さん:アートマネジメントに障害の要素を取り入れるという意味で、谷本さんは学生に鈴木さんの取り組みを伝えていますか?

 

谷本さん:紹介しています。決められた楽譜をいかに演奏するかを意識している学生が多いのですが、障害を考慮した活動をするには違う能力が必要だと伝えています。その必要性を、先生たちにも伝えていかないとカリキュラムに組み込まれないので、今広めているところです。

これからのセンターの活動について、笑顔で話す喜納さん(写真右)。

6. 質疑応答

最後の質疑応答では、参加者からの質問に対し、登壇者が回答しました。

 

Q:センターへの最初の連絡はどうしたらいいですか?

 

喜納さん:電話、メール、手紙、FAX、なんでも大丈夫です。すでに相談はたくさんいただいていて、真摯に受け止め対応しています。センターのWEBサイトに連絡先の情報が載っています。

 

     riccaへのお問い合わせはこちら

 

Q:センターでは、ビジネスとしてマネタイズを見据えたアート活動を考えていますか?

 

岡部さん:今ある原画が売れて収入につながる機会は、日本国内ではほとんどありません。表現活動によって本人の自尊心や周りのスタッフ・家族の眼差しが変わる、それによって本人の日々の生活や仕事がちょっと安定する、それがまた制作に反映されるという大きな循環を考えながら支援をするのがいいと考えています。

 

アート活動が、すぐに工賃アップにつながるとは考えない方がいいと思います。

ただ、作品の二次利用や、ワークショップでものづくりのファシリテーターになってもらい(参加者に)有料で参加してもらうなど、アート活動を通じて仕事の幅を広げていくことが、少しずつ工賃アップにつながるのではないかとは思っています。

 

会場からの質問に丁寧に回答する岡部さん(写真左から二人目)。

7.わったーアート展

 

セミナー会場前では、障害のある人のアート作品の展示が行われました。タイトルの「わったー」は沖縄の言葉で「私たちの」を意味します。

 

作品は、沖縄県内計4か所の福祉事業所から出品。その中には、取り組み事例の紹介があった3つの事業所も含まれています。

 

絵画、ぬいぐるみ、銀細工、刺繍、陶芸、靴にデザインが施された作品など、およそ30名の作品が並びました。

 

セミナーの前後に、作品をじっくりと鑑賞する来場者が多く見られました。

 

 

セミナーは予定時間を10分ほど超える盛り上がりのなか、終了しました。

セミナーの模様は「2025.3.22 開催セミナー動画」にて、視聴できます。記事と合わせてぜひご覧ください。

 


 

『障害のある人たちの芸術活動のこれからを考える』

日時:2025年3月22日(土)13:30〜17:00

場所:おきなわ工芸の杜 多目的室(沖縄県豊見城市豊見城114番地1)

セミナー参加対象:福祉/文化芸術/教育関係者、障害のある人の芸術活動に興味のある方

参加料:参加無料、オンライン参加可能

 

同時開催:わったーアート展(おきなわ工芸の杜 エントランスホール)

 

主催:ricca(沖縄県障害者芸術文化活動支援センター)、九州障害者アートサポートセンター

助成:令和6年度 障害者芸術文化活動普及支援事業