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わったーアート・セミナー2025 「ありのままの表現を、あるがままに分かち合う」

2026年2月21日(土)、沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)美術館講座室にて、わったーアート・セミナー「ありのままの表現を、あるがままに分かち合う」が開催されました。

今回のセミナーには、沖縄県内の福祉や障害のある人たちの芸術活動に関心をもつ方など、対面・オンライン合わせて約75名が参加。また、オンラインの参加者は北海道から沖縄、さらにはアメリカやタイなど国外にまで広がりました。
2025年1月に設立された、沖縄県障害者芸術文化活動支援センター「ricca/りっか」の活動や、県内事業者による活動報告、国内外で高い評価を得ている「やまなみ工房」(滋賀県)の山下施設長による講演など、現場の熱量と表現の本質を語り合う場が設けられました。

司会は、沖縄県障害者芸術文化活動支援センターriccaの楚山佳助(そやまけいすけ)さん(以下、楚山さん)が担当しました。

参加者の机には利用者の作品がデザインとなった封筒が並びます。

受付ではちゃれんじどスクールの「117805 iinahachimaruGo」(写真上)と、てるしのワークセンターの「紅型クラフト」(写真下)の作品が展示されていました。

対面30名、オンライン45名の合計75名が参加。楚山さんの進行で始まります。

目次

1.「ricca/りっか」の支援事業について
2.沖縄県内の事業所の活動紹介
∟「伝統×福祉×SDGs――段ボールで広がる新しい紅型の世界」てるしのワークセンター(南風原町)
∟「福祉×エンタメ――音楽とアートで心をひらく生活介護の表現活動」ちゃれんじどスクール(うるま市)
∟パネルディスカッション
3.特別講演
∟「全ては幸せを感じるために~やまなみ物語~」やまなみ工房(滋賀県)
4.質疑応答・登壇者ディスカッション
5.パワーランチの様子

1.「ricca/りっか」の支援事業について

はじめに、全国で進められている障害者芸術文化活動支援事業の紹介がありました。この事業は厚生労働省が2017年度から整備を進めてきたもので、昨年度ついに47都道府県すべてに支援センターが設置されました。
沖縄では2025年1月に「ricca/りっか」が活動を開始し、相談支援やネットワーク構築、情報発信など、地域の実情に寄り添いながら活動しています。
riccaの楚山さんは、支援センターの役割は作品制作を手伝うことだけではなく、表現する人やその周りにいる人が安心して活動できる環境を整えることにあると話し「今日のセミナーも、表現する人をまんなかに置いて考える大切な時間にしたい」と語りました。
つづいて、共同主催である九州障害者アートサポートセンターから、センター長の樋口龍二(ひぐちりゅうじ)さん(以下、樋口さん)が登壇しました。九州エリアでの活動の広がりや、県を越えた連携の大切さなどが丁寧に紹介され、沖縄とのつながりにも触れながら「互いの活動を紹介し合い、補い合える場を大切にしていきたい」と語りました。
行政からは、沖縄県生活福祉部居宅福祉課生活推進班の皆さまが来賓として参加され、県としても障害のある人の文化芸術活動を支えていきたいという心強いメッセージを寄せてくださいました。
今回は手話通訳者も入り、聴覚に障害のある方も参加しやすいセミナーとなりました。

2.沖縄県内の事業所の活動紹介

「伝統×福祉×SDGs――段ボールで広がる新しい紅型の世界」てるしのワークセンター(南風原町)

最初の取り組み報告は、南風原町にあるてるしのワークセンター。比嘉敏子(ひがとしこ)さん(以下、比嘉さん)と竹内香代子(たけうちかよこ)さん(以下、竹内さん)の2名が登壇し、沖縄の伝統工芸である紅型(びんがた)を福祉の現場で再創造した活動が紹介されました。

てるしのワークセンターの活動をエネルギーにあふれた様子で報告する竹内さん(写真左)と紅型技術指導者の比嘉さん(写真右)。

てるしのワークセンターには紅型班「世界にひとつ」があり、13名の染人(そめんちゅ)による、個々の得意を活かした工芸品制作が行われています。
商品のコンセプトは「伝統×福祉×SDGs」。誰もやっていないことにチャレンジしたいという比嘉さんの思いから、廃材の段ボールに沖縄伝統工芸紅型を施し、新たな形を生み出すアップサイクル商品が開発されました。
制作の工程は伝統的な紅型の工法に基づき、段ボールの下準備からのり置き、染色、隈取り、アイロンがけ、のり落としなど多くのステップがあります。竹内さんは「ひとつひとつの工程に、利用者さんそれぞれの得意なことが活かされています」と語り、作業の様子をていねいに紹介しました。
段ボールに染められた紅型クラフトは、リングノートやポチ袋、ポストカードなど。商品として県内各所で販売がされており、その人気と認知度は徐々に広がりを見せているとのことです。
実際に会場に展示された作品を見た人からは「本当に段ボールに染めているの!?」という驚きの声があがりました。
さらに、制作の中で生まれた端材を無駄にせず活かすために考案された「幸せお守りまーす」は、令和7年度の南風原町の「はえばる良品」に認定されました。紅型の古典柄や十二支をモチーフにした柄などがあり、自分だけのお気に入りを一期一会で見つけることができます。

竹内さんの紹介でスクリーンに写されたのは、施設の所在地である南風原町にちなんだモチーフを施した「幸せお守りまーす」。首里十二支巡拝で祈願した塩が包まれたお守りです。

比嘉さんは「制作を通して、伝統工芸が福祉とつながるとは思っていませんでした。でも利用者さんと一緒につくることで、紅型がさらに広がり、誰かの力になれるかもしれないと感じるようになりました」と語りました。会場では深くうなずく参加者の姿が多く見られ、伝統工芸への新しいアプローチが共感を呼んでいるようでした。
さらに今後の展望として、収益面において販路の拡充を熱く語る竹内さんの姿もあり、ますますの進化に期待のふくらむ活動紹介となりました。

紅型クラフトの制作工程を紹介する竹内さん。利用者さんがそれぞれ得意な作業を担当しているので、リレーのように作品が仕上がっていく様子が伝わりました。

「福祉×エンタメ――音楽とアートで心をひらく生活介護の表現活動」ちゃれんじどスクール(うるま市)

つづいては、うるま市にある生活介護事業所・ちゃれんじどスクールから、音楽活動「ちゃれんじど楽団」とアートブランドの取り組みが紹介されました。
登壇した近藤美香(こんどうみか)さん(以下、近藤さん)は、利用者さんの「好き」が活動全体をつくり出していると話し、その言葉の通り、映し出された写真や語られたエピソードはどれも生き生きとしていました。

ちゃれんじど楽団の活動を生き生きと報告する近藤さん。好きなことを精一杯やりきる姿がどれほど尊いかを熱く伝えてくれました。

「ちゃれんじど楽団」では、楽器やダンス、歌など、それぞれの利用者さんが好きな表現を選んでステージに立ちます。
最初はライブハウスなどを借りての自主公演から始まりましたが、活動を続けるうちに地域イベントや商業施設などから声がかかるようになったとのことです。公演数も今では月に1、2回と数を伸ばし、多くの人が楽しみにしている存在になっています。
近藤さんは「表現することを楽しむ姿を見ると、こちらまで元気をもらえます」と話します。
また「利用者さん同士が名前を呼び合い、協力しながら練習をするようになった」とのこと。音楽が仲間とのコミュニケーションを自然と促している様子が伝わり、会場にも温かい笑い声が広がりました。

ちゃれんじど楽団のメンバー紹介が行われ、スクリーンに映る笑顔につられて、見ている人も思わず口元がゆるむ様子が伺えました。

さらには、アートの取り組みから生まれたブランド「117805 iinahachimaruGo」の紹介も。
支援員が利用者さんが描く絵の魅力に気づいたことがきっかけで、作品を日用品として社会の中に落とし込みたいという思いから、トートバッグや小物が生まれたといいます。
完成した商品はどれも鮮やかで、見ていると自然と心が明るくなります。近藤さんは「絵を描く姿がすでに表現であり、その時間を大切にしたいと思っています」と伝えました。

「117805 iinahachimaruGo」の紹介。大胆な色使いを施した作品が、トートバッグや靴下など日常でも楽しめる商品がつくられています。

近藤さんは、ご自身の経験を踏まえて「好きなことを表現すると、その人らしさが輝き、まわりの人も明るい気持ちになる」とも語ります。
そのように思うようになったきっかけは「就業できない人=社会に貢献できないのか?」という自問でした。しかし、近藤さんは、音楽やアートなど、自分の「好き」を一生懸命生きる利用者の姿を目にするうちに「そうではない、彼らがいるだけで場が明るくなる。そこには数値化できない利益があり、確実に社会に貢献できている」という答えにつながっていった、とのこと。
ステージを重ねることで多くの人の心が動かされる、それは社会を動かすことではないか、と近藤さんは強調します。
「表現することを、楽しむ姿」自体に誰かの心を動かす力があり、それが社会への貢献へとつながっていくのではないか――「ちゃれんじど楽団」の活動紹介は、そんな問いかけを聞き手に残しました。

パネルディスカッション

2つの事例紹介の後、九州障害者アートサポートセンターの樋口さんを聞き手に、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションの進行を務めた樋口さん。2事業所の活動報告を聞き「伝統工芸と音楽はちょっと違った取り組みに感じるが、共通して利用者が安心して表現できる環境を整えるというのが大事だと伝わった」と感想を述べました。

樋口さんの問いかけのもと、それぞれの現場で大切にしている視点や、日々の工夫、悩みや喜びなどへと話題は広がります。三者の話が重なり合う中で、共通していたのは「本人のペースを尊重すること」「作品や表現の“正解”を決めないこと」「支援する人が楽しむことが、本人の安心にもつながる」という視点でした。
また、各事業所からは「制作のルールをつくりすぎないことの難しさ」「本人の気持ちを尊重しながら販路や活動を広げる工夫」などの課題を語り合う場面も。実際の現場での悩みや成功体験が共有される、参加者同士の学び合いの時間となりました。

「表現されたアートをどう世の中に魅力的に発信し環境をつくるのか、やまなみ工房さんのお話しをぜひ楽しみにしてください」と後半の基調講演への期待を述べる樋口さん。

3.特別講演

「全ては幸せを感じるために~やまなみ物語~」やまなみ工房(滋賀県)

セミナーの後半では、滋賀県のやまなみ工房から施設長である山下完和(やましたまさと)さん(以下、山下さん)による基調講演が行われました。山下さんは約35年もの長い間、障害のある人の創作活動を支える現場で活動しながら、作品の社会への伝え方や、制作する人を大切にする姿勢について深く考えてこられた方です。

「清々しい土曜の朝が似合う男、山下でございます」という自己紹介で、一気に会場を笑顔にさせる山下さん。

やまなみ工房での山下さんの支援は、国内のみならず海外でも高い評価を得ています。
国内各地での展覧会への出展や企業からの作品制作やコラボレーションの依頼が多数寄せられるほか、作品がデザイナーの目に留まりパリコレで発表するなど、さまざまな活動が行われています。

利用者の作品がデザインとなり、パリコレで発表された様子を紹介する山下さん。

はじめは6名だった利用者は現在94名。一般就労や他の事業所での受け入れが難しい方も、やまなみ工房は一切断らず受け入れ続けています。
今回の講演では、代表して9名の活動紹介がありました。
語り口はとてもやわらかく、まるで絵本の朗読のような、落ち着いた雰囲気ながらもわくわくした気持ちが共存する時間となりました。

楚山さん(写真右)からの紹介にお辞儀で答える山下さん(写真左)。

講演では、前方スクリーンに映し出されたやまなみ工房の様子とともに、これまで関わってきた利用者の方々のエピソードが紹介されました。
山下さんが大切にしているのは、次の点です——制作のルールを決めすぎず、本人が安心して表現できる環境を整えること。上手いか下手かではなく「その人らしさ」を尊重すること。そして、作品が誰かの目に触れたときにはじめて、表現が社会の中で息づき始めること——どの言葉も、長く現場にいるからこそ醸し出される重みがありました。
特に印象的だったのは「作品が商品になるとき、本人のペースや気持ちが置いていかれないようにしたい」という言葉でした。
必要とされることは励みになる一方で、その期待が重荷になってしまうこともあります。制作する人の気持ちを丁寧に確かめながら進めることが大切だと、山下さんは話されました。

利用者にとって居心地がいい環境を整えているやまなみ工房。スライドで紹介される利用者の制作風景は、自宅のようにリラックスしている様子が写されていました。

また、支援者が作品を“良いものにしよう”と意識しすぎると、本人の自然な表現が失われてしまうこともあると、山下さんは話します。
あくまでも、利用者にとっては、アートや芸術をやってるのではなく、好きなことを好きなだけやっているだけであり、それが“表現”になっていて、いつのまにか周りの見方が変わっているだけ。
「やること全てに価値がある」という山下さんの言葉は、特に心に刻まれるものでした。

「描きたいように描いてみよう つくりたいように つくってみよう 君は君らしく 生きてみよう 自分のために」施設長である山下さんから利用者へ“ここは安心できる場所だよ”という気持ちを表した言葉です。

山下さんが伝えたかったのは、表現する人の内側にある「そのまま」でいられる時間を守ることの大切さです。それは作品そのものを支えるだけでなく、本人の暮らしや心の安定にもつながると、山下さんは続けます。
この話に、参加者の多くが静かに共感を寄せているようでした。

教科書の落書きのような、ちょっとしたいたずらから始まったアート。なんと渋沢栄一記念財団の方の目に留まり「特別展のポスターに描いてください!」とオファーがあり、このポスターは日本全国をまわりました。

4.質疑応答・登壇者ディスカッション

山下さんによる基調講演の後、県内の事例紹介を行った竹内さん、比嘉さん、近藤さんら、本日の登壇者全員が集い、九州障害者アートサポートセンターの樋口さんを聞き手に、参加者を巻き込んでのディスカッションが行われました。

山下さん(写真左)のお話に、会場は笑いの絶えない空間となりました。

会場参加者から「画材の調達はどのようにしていますか?」という質問に対し、やまなみ工房の山下さんは、全て施設で揃えているということ。「描く人の気持ちが乗ってくるように描き心地にすぐれた“良い画材”を選んでいる」と答えました。
この回答には他の登壇者も大きくうなずき、ちゃれんじどスクールの近藤さんは「楽器も同じです。高い楽器の方がいい音が出て、演奏もノリノリになります!」と答えてくれました。
会場からのこの質問を皮切りに、登壇者によるディスカッションが熱を帯びていきます。
現場で大切にしている視点や日々の工夫、悩みや喜びについて、それぞれから語られましたが、共通していたのは「利用者の“やりたい気持ち”を尊重すること」「作品や表現の正解を勝手にこちらで決めないこと」「支援する人が楽しむことが、利用者の安心にもつながる」という点でした。

同じ支援する側として、現場の悩みを質問として相談する参加者。対面だけでなく、オンライン参加者からも多くの質問が寄せられました。

また、今回のセミナーで多く登場したのが「しあわせ」という言葉です。
「利用者にとってのしあわせとは?」という樋口さんの問いかけに、登壇者も参加者も考えを巡らせる時間がありました。
しあわせの定義について、樋口さんは「違うことを楽しめる環境や社会であることがしあわせだと思う。多数派だから正常という雰囲気に社会がなってしまうのは避けたい」と話します。

「しあわせ」について語る九州障害者アートサポートセンター センター長の樋口さん。

続けて竹内さんからは「周りも笑っていないとしあわせを感じない。今日は作業したくないな、今日はこれをやりたいな、という気持ちを尊重できて全員が穏やかな時間を過ごせる今の施設は、しあわせな環境だと思う」と答えてくれました。
比嘉さんは「安心してここにいていいと思える環境がしあわせなのではと思います。失敗したくない、失敗は怖いという気持ちを、紅型クラフトを通して成功体験を積んで、得意をやりがいに変えていけるとしあわせにつながると思う」。

紅型指導員の比嘉さん(写真右)は「私は技術指導、竹内さん(写真左)は営業の経験を活かして販路拡大などを担当しています」と、支援する側も個々の得意をつなげて社会に作品を送り出せることにしあわせを感じるともお話してくれました。

最後に、近藤さんは「利用者のほうがしあわせをよくわかっていると感じる場面があります。人のしあわせを勝手に考えてはいけないと思うようになりました。その人自身を否定もしないし肯定もしない、彼らの考え方にいつも学びを得ています」と話します。

「日々を過ごす中で彼らにしあわせとは何かを学んでいる、考えが更新されていくのが私自身のしあわせです」と話す近藤さん。

「障害のある人たちがしあわせを選ぶための選択肢が少ないのも現実。それぞれが個性を出せる、考えられるコミュニケーションや環境づくりを引き続き支援したい」と、樋口さんのまとめでディスカッションは締められました。

今回のセミナーは、障害のある人の文化芸術活動が、地域の中でどのように息づき、どのように広がっていくのかを多くの視点から振り返り、その可能性を探る時間となりました。
伝統工芸を新しいかたちで受け継ぐ取り組み。音楽やアートが日々の生活に喜びや変化をもたらす様子。そして何より、表現する人の「そのまま」が大切にされる環境をどう整えていくのかという問いかけ。どの話題も、表現を支える現場にとって大切なヒントに満ちていました。
“ありのままの表現をありのままに語り合う”というテーマが示すように、表現活動の本質は「個の力を輝かせ、社会とつながること」。
沖縄と全国を結ぶネットワークが、その歩みをこれからも支えていきます。

向かって左から近藤さん、樋口さん、山下さん、比嘉さん、竹内さん。“ありのままの表現”を支える実践者たちの、ありのままの笑顔が溢れる充実したひと時となりました。

5.パワーランチの様子

セミナー終了後には懇親会として同美術館にあるレストランにてパワーランチが開かれました。ランチを食べながら、参加者同士や登壇者への質問など有意義な時間となりました。