
STORIES
ストーリーズ
与那覇俊
Shun Yonaha
思考を超えて、描き続ける――
止められない衝動から生まれる表現
はじめに、今回の展覧会の招待作家である与那覇俊(よなはしゅん)さん(以下、与那覇さん)にお話しを伺いました。
沖縄県出身で、現在も県内で創作を続けている与那覇さん。ご自身の精神疾患の経験が今もなお作品に影響を与え続けています。
文字と絵が融合した独創的な表現で作品を描き、沖展での市長賞受賞や岡本太郎現代芸術賞での入選など、沖縄県内だけでなく県外でも数々の功績をおさめています。また、2021年にはパリにある近現代美術の殿堂、ポンピドゥーセンターに作品が収蔵されるなど国外でも高い評価を得ているアーティストです。
直近では「Art to You! 障がい者芸術世界展 IN SENDAI 2025」にて最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。今回の展覧会では受賞作である「巨人病院7」が沖縄で初公開されました。

作品の前で少し照れたようにピースで撮影に応じる与那覇さん。今回初めてグッズ制作もしたとのことで、実際に販売されているデザインTシャツを着用していました。
与那覇さんにとって創作は、「考えて描く」ものではありません。脳内に渦巻く無限のアイデアが絶え間なく溢れ出し、導かれるように自然と手が動いていく、そんな無意識の衝動が原点にあります。毎日それらを紙に吐き出さなければ気分が悪くなってしまうため、心身のコンディションに関わらず、常に同じリズムで描き続けます。
友人に「人造人間みたいだね」と言われるほど、自身の感情の波に溺れることなく淡々と描き続ける姿。それは日々溢れ出る圧倒的な熱量に呑み込まれないよう、あえて一定の距離を保ちながら、静かに作品へと昇華し続けるための彼なりの作法(リズム)なのです。
与那覇さんにとって創作は睡眠や食事と同じ、生きることの一部になっています。
取材が始まると同時にノートを開き、質問の合間に絵を描く与那覇さん。右手にはペンのインク跡もあり、取材中であっても展覧会中であっても“絵を描くことは生活の一部”という日常は変わりません。
与那覇さんの作品表現の源流は、精神を病んだことをきっかけに、約10年間一心不乱に妄想や思考を書き留め続けた「脳ノート」にあります。文字から次第に絵へと変化していったその生々しい営みが、ひとつの“作品”として覚醒したのが2013年頃でした。知人の作品を見て、自身の表現を発表することを意識して筆を取ると、最初に描いた作品が「こころの芸術文化フェスティバル2013」で最優秀賞を受賞。その出来事が大きな転機となり、現在の制作活動へとつながっています。
制作を始めてから、毎日約5時間欠かさずに絵を描き続けているという与那覇さん。制作の時間帯は主に午前9時から午後2時頃まで。基本的にその日のうちに一つの作品を完成させ、翌日に手を加えることはほとんどありません。
積み重ねられた時間の密度と、一定のリズムで繰り返される制作が、今日まで独自の表現を形づくっています。
今回展示されている「巨人病院」シリーズは、精神病院にいる友人の存在を残したいという思いから生まれたものです。「日々の記録のように描き続けることで、見えにくい記憶や関係性を形にしている」と与那覇さんは語ります。

内閣総理大臣賞を受賞した「巨人病院7」。1日1枚描き続け、計48枚組からなる大作です。時系列でストーリーを読み取ったり、間違い探しのように見比べたり作品を自由に楽しむ来場者の姿がありました。
「作品のアイディアは、身近な人との関わりから生まれることもあります」と与那覇さんは語ります。
たとえば甥っ子と一緒に過ごす時間や、日常の中のちょっとした出来事。その一つ一つが、新しい発想の種になっているそうです。
日々の何気ない出来事から創作のひらめきを受け取るという姿勢は、365日毎日欠かさず絵を描き続ける上で大事なことなのかもしれません。

作品の横に設置された与那覇さんの紹介文には「365日年中無休の意味 ART 作者の無意識下で、着々と多くの技術進展中 後で見てどうやって書(描)いたのかわからない作品も多数」。創作のモットーである“思考を超えて、描く”が表れています。
現在は絵本の制作にも取り組んでいる与那覇さん。「桃太郎」や「金太郎」などの昔話を組み合わせた独自の物語で、シリーズとして展開中です。すでに3作品が完成しており、4作目で完結する予定だといいます。
完成した絵本は、図書館や保育園など、多くの人の手に届く場所に置きたいという思いがあるそうです。
また、これまでに合作やライブペインティングにも取り組んできたという与那覇さん。障害者施設でのライブペインティングは10回ほど経験しており、今後はミュージシャンの友人とともに、より大きな空間での表現にも挑戦してみたいと話します。
将来について、与那覇さんは自宅とアトリエを兼ねた建物をつくりたいという構想を語ってくれました。「上階を展示スペースとし、描いた作品をすべて広げられる場所を持つことが、一つの大きな目標です」
また、作品集の出版やライブペインティングの複写を観客へ届ける取り組みもしたいと話します。
与那覇さんは、縦横無尽に、次から次へと、今後の構想・挑戦を語ります。思考を超えて、描く——その表現の向こう側には、私たちには想像も及ばないような未来が広がっていることでしょう。

与那覇さんは、取材陣が購入したポストカードにその場で作品を描いてくれました。想像よりも速いペンの動きは、まるでライブペインティングのよう。「次は何を描くのか?」と目が離せませんでした。
最後に、現在の47歳という年齢について「未来が少しずつ小さくなってきている感覚がある」と、与那覇さんは時間を“大きさ”で言い表します。これは「未来の可能性の縮小ではなく、過去の積み重ねが大きいからだ」と続けました。
「今日もやりきった」を毎日繰り返している与那覇さんの作品には、明日への活力に繋がる不思議な力が込められているのかもしれません。